研究概要 |
成長中の鍾乳石表面のその場色彩測定を毎月1年間行った結果,夏場に茶色の度合いが高くなることが判明した.この現象は,夏場の多雨期に鍾乳洞内の河川水位が上昇し,鍾乳石が洞内河川に一時的に水没することに関係すると見られ,河川水中の懸濁物の色合いが鍾乳石の茶色のそれと一致することや鍾乳石の塩酸溶解残渣中に不溶性腐植物質ともには砕屑性と見られる磁鉄鉱やシリカが含まれていることから,鍾乳石の縞模様の茶色いスジは洞内河川の作用によって形成されている可能性があるという新たな認識を得た. 一方,鍾乳石の白い方解石部分を形成させている滴下水について,鍾乳石への滴下前と滴下後の水のCa^<2+>濃度と滴下レートを用いて間接的に鍾乳石の成長速度を割り出す方法を考案し,上述の成長中の鍾乳石へ応用したところ(毎月1年間の観測),Spotl et al. (2005)に予想されているように,鍾乳石は洞外大気による洞内空気のベンチレーションが激しい冬場の低pCO_2時によく成長し,夏場の高pCO_2時には成長が鈍るという現象を捉えることに成功した. 上記2つの結果を総合し,「鍾乳石の茶色と白の縞模様は,鍾乳石本体を構成する方解石の成長の季節変化に対して,その成長が遅くなる夏場に洞内河川から茶色物質が付加されることで与えられる」という縞々の形成過程に関する新たなモデルを得るに至った.
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