研究概要 |
溶存有機物(DOM)の水圏における役割が注目されるようになって久しい。溶存有機物を質量分析やNMR測定により分析する際には脱塩・濃縮などが不可欠であるが、分画により分離される物質の化学的特徴に関する知見は限られている。昨年度は固相抽出法であるC_<18>,XAD樹脂による分画の比較を行ったが、今年度は分子サイズにより有機物を分離できる物理的分画法である限外ろ過膜法,試料中の疎水性物質を優先的に分離・濃縮できる化学的分画法であるC_<18>固相抽出法の比較を目的として、両法により分離された琵琶湖DOMを、蛍光スペクトルおよびフーリエ変換イオンサイクロトロン質量(FT-ICR MS)により分析した。 琵琶湖水を採取し、水深8mと85mの試料について分画を行ったところ、FT-ICR MS測定の結果から、試料の質量イオンピークは水深8m,85mのC_<18>吸着DOM,水深8mの高分子DOMではほぼ全てがm/z値1000以下で検出された。一方、水深85mの高分子DOMの質量イオンピークはm/z値1000以上においても検出された。また、質量イオンピークの精密分子量から予想された分子式の元素比を基に作成したvan Krevelen Diagramによって構成有機物の組成を比較したところ、C_<18>吸着DOM,高分子DOMともにリグニン様物質タンパク様物質が主な構成成分であることが示唆された。また、C_<18>吸着DOMには多糖類,縮合型炭化水素が、高分子DOMには不飽和度の高いフミン様物質,加水分解性タンニン様物質が含まれていることが示唆された。
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