本研究では金スパッタリング法を用い、石英ろ紙上に強固な金皮膜を形成させ、既存のSOx用パッシブサンプラーの拡散プレートと組み合わせることによって、新しいガス状水銀(Hg(0))を対象としたパッシブサンプラーを開発することを目的としている。昨年までの研究で、スパッタリング法により、ろ紙上に均一な金皮膜を形成する条件を見出し、大気中の水銀濃度を多点で同時測定することを目的とした電源不要のパッシブサンプラーを開発することができた。このようにして作成したパッシブサンプラーを用い、インドネシアアチェ州の金採取が盛んなDatar Luas村において金精錬所から大気中に放出される水銀の拡散状況を多点で同時に観測した。その結果、精錬所内では1740ng/m^3と極めて高濃度の水銀が検出され、周辺地域からも高濃度の水銀が検出された。また、中央スラウェシ州のパル市Poboya地区では、730基もの精錬所が稼働しており、この地域において大気中水銀濃度を測定した。その結果、Poboya地区では大気中から47000ng/m^3もの水銀が検出された。周辺市街地でも1000ng/m^3を超える高濃度の水銀が検出された。パル市は30万人の人口を有するが、市中心部においても600ng/m^3であった。精錬の規模が大きく、広範囲に水銀が拡散していることが明らかとなった。このように本研究ではパッシブサンプラーの有効性が確認できた。 これらの研究成果は、2010年11月に中央カリマンタン州のパランカラヤ大学においてフォーラム"International Forum on Mercury Emission from Small Gold Mining Sites"を開催し、現地に還元した。
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