研究概要 |
近年,温暖化による生物の分布域の撹乱が社会問題となっており,現時点における生物相の把握や過去の生物相との比較は重要な課題である。本科研費の助成を受け,御前崎沿岸における海藻相・藻場を指標とした温暖化の影響評価を行う事を目的に平成20年度より研究を行っている。 平成22年度は当該年における御前崎の気温に関する既往資料(気象庁による月平均気温)と,本研究により潮下帯上部に設置した水温ロガーによる月平均水温を用いて,昨年度に入力した1935年からのデータと併せて気温・水温の長期的な解析を行った。年平均気温・水温は共に長期的に上昇しており,76年間で気温は0.89℃,水温は0.52℃上昇していることが判明した。また,長期的な月別の気温は7~月を除き上昇傾向が,長期的な月別の水温は5~8月を除き上昇傾向が認められた。また,本年度も御前崎沿岸で海藻相調査と藻場のバイオマス調査を継続して行った。これまでに得られた海藻種のデータの中から,本年度は褐藻類の種組成についての結果をとりまとめた。御前崎では褐藻類39種が確認され,この内,打ち上げのみで採集された種は18種であり,ケウルシグサやカジメとホンダワラ属の13種の計15種が偶発的な漂着種であった。御前崎・相良ではかつて8000ヘクタールに及ぶサガラメ海中林が存在したが,2000年には消滅したことが報告されている。本研究でもサガラメは全く確認できず,大型褐藻も偶発的な打ち上げ種以外はほとんど確認できなかったため,同地では磯焼けが継続していると言える。最近同地に生育している褐藻類は39-15=24種であり,過去の報告では打ち上げなど漂着種に関する記述が無いものが多いが,リストに上がったものは概ね生育種と判断できるので,御前崎では近年褐藻種が減少していることが明白となった。なお,これらの成果については藻類学会第35回大会で報告した。
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