研究概要 |
安全な水源と適切な衛生設備の不足は世界的な問題である.その解決のため,水系の微生物汚染に対して輸送機構と感染機構を統合した予測モデルを確立し,アジアモンスーン域の洪水氾濫地域において汚染影響の実態を検証する.本課題を通して,環境微生物学,疫学,水文学の分野を横断する研究環境を創出し,地域の総合的な健康リスク管理の基盤作りを目指す.平成20年度は,(1)環境因子を考慮した陸水域の微生物輸送モデル,(2)疫学的な社会因子を考慮した水系感染モデル,(3)環境試料に分布する大腸菌等の遺伝子レベルでの検出・定量法を検討した.その結果,(1)では汚染影響の変動を無視できる自然河川流域で微生物流出の基礎データを取得し,これを基に微生物の河川流出を表現する1次元河道内輸送モデルver.1を作成した.基礎的レベルではあるが,大腸菌と浮遊粒子の吸脱着関係および水中-河床間の移動過程を含んでおり,定常流での大腸菌の輸送については十分な再現結果を得た.(2)ではダッカ市のスラム地区で下痢症の発生、洪水氾濫規模、社会環境要因、生活用水・環境水水質のデータを蓄積し汚染機構を解析した.水系感染の下痢を発症させる要因のうち,自然因子としては氾濫タイプと期間,社会因子としては上下水等の衛生設備が強く影響している可能性を示すことができた.また,水系感染症のリスクを評価する指標として損失余命(DALYs)の有効性を提案した.(3)では,Internal standard cell(大腸菌のトランスポゾン変異株)とリアルタイムPCR法を組み合わせたDNA抽出効率算出法を開発し,この方法が複数の土壌,河川水試料中の総細菌の定量に有効であることを示した.
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