研究概要 |
本課題では,世界各地で安全な水源と適切な衛生設備の不足により引き起こされる問題の解決のため,水系の微生物汚染に対して輸送機構と感染機構を統合した予測モデルを確立し,アジアモンスーン域の洪水氾濫地域において汚染影響の実態を検証することを目的とした.平成21年度は,1.環境因子を考慮した陸水域の微生物輸送モデルの作成,2.社会因子と衛生行動を考慮した下痢発病の疫学モデルの作成,3.洪水氾濫が水系感染リスクに与える影響の統合モデルによる検証のうち,1.と2.を集中的に実施した。1.では,昨年までに開発した大腸菌の1次元河道内輸送モデルver.1の計算精度を検証するため,洪水期間中に河川水試料を経時的に採取し,浮遊粒子吸着型と非吸着型の大腸菌を分別定量した.その結果,大腸菌の吸着率は過去の報告と異なって極めて非定常的であり,今後,微生物拡散の予測モデルを提案する上で構造上不可欠な因子であることを示した.2.では,昨年に行ったダッカ市スラム10地区の小児下痢症の解析を進展させた.全ての浸水地区での下痢発症率は非浸水地区に比べて有意に高く、特に恒常的かつ滞留型/排水不良型の浸水地区で雨季後に健康影響が深刻になる傾向がみられた.また,乾季には社会経済的要因が自然的要因に比べてより健康リスクを増大させており,雨季およびそれ以降は逆に自然的要因の影響が増大することを示した.同時に,小児の下痢発症の抑制には世帯レベルの衛生行動,即ち水処理や排便後の手洗いが効果的であることも明らかにした.
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