本研究の究極の目的は、乳幼児の健診臨床所見と母親の食習慣・生活習慣、母子の毛髪ミネラル量、環境起因が疑われている疾患との関連を統計解析して、相互の因果関係を解明し、疾患の予防並びに臨床に還元することである。今までの環境有害物質による健康影響の調査方法は、集団の平均曝露量と平均有病率(または死亡率)の関連(Ecological研究法)か、主にアンケート調査に基づく間接的曝露量推定値と健康度との関連を調べることであった。どちらも統計学的には信頼度の低い結果しかえられない。そこで、PIXE法により直接毛髪ミネラル量を測定し、健康診断の成績との関連を分析し、さらに遺伝的要因も考慮した上で、因果関係を究明したい。 平成20度に開始したPIXE測定は平成21年度末に全て終了し、3600検体のミネラル量測定値がえられた。信頼度解析のために2重測定(毛髪1検体を2つに分けて、それぞれを独立に測定し、比較)したミネラル量の統計解析により、疫学研究に利用可能な信頼度を有する条件を設定した。それによると毛髪本数が少ない1か月検診乳児の一部の毛髪を再測定する必要を認めた。また、母親のS(硫黄)は検体によらず近似的に一定値であり変動は個人内変動と測定誤差によるという、組織学上の仮説が統計学的に検証された。 詳細な臨床情報(医学検診、身体測定、問診、診断)約1800件はダブルチェック法による入力を終了した。ダブルチェックとは入力を独立に2回行い、パソコン内で不一致を検索し、不一致が発見された項目については再度人間が確認した上で正しい情報を入力する方法をさす。大変手間暇のかかる方法であるが、アトピー性皮膚炎他の因果関係を探求することが目的なので、正確な入力を優先した結果の処置である。漸く多変量解析によりミネラル量、臨床情報、問診の関連を解析する段階に至った。
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