研究概要 |
大気二酸化炭素濃度の増大と表面海水の酸性化によるサンゴ石灰化への影響に関する研究を行った。サンゴの石灰化に対する海水のpHの影響について定量的なデータを得るため、pHを変化させた海水中でサンゴ飼育実験を行った。海水のpHを変化させると炭酸塩の化学平衡からその海水のアラゴナイト(炭酸カルシウム)に対する飽和度(Ω)は変化することになる。沖縄のサンゴ礁から採取、飼育していたハマサンゴ試料をpHを変化させた3種の海水中(25℃)で飼育し、石灰化速度を測定した。その結果、サンゴの石灰化速度(R)と海水のアラゴナイトに対する飽和度(Ω)の間には、R=K(Ω-1)の関係が成立することが明らかになった(k:速度定数)。したがって、これらサンゴの石灰化機構は1次反応に規定される可能性が高い。さて、1800年ころの大気二酸化炭素(280ppm)と海水のアルカリ度(2.3mmol/kg) (pHの推定値は8.3)から19世紀の海水のアラゴナイトに対する飽和度は4.5とモデル計算される。Ω=4.5のときのサンゴ石灰化率(G)を100%とすると、上式は一般式として、 G(%)=100(Ω-1) / (4.5-1)と単純化できる。2006年(CO_2=380ppm, pH=8.20)、2100年(CO_2=540ppm, pH=8.07)のΩ値はそれぞれ3.8および3.0と計算される。上式の各Ω値を代入すると、G値はそれぞれ80%(2006年)、57%(2100年)と計算できる。このような化学シュミレーションに照らして、サンゴ石灰化速度は産業革命以前に比べて現在は約20%減少しており、2100年には約40%以上減少する可能性がある。過去から未来への地球環境変動の予測をこの研究で試みた。温度、照度を変えたサンゴ飼育実験を継続し、G(%)=100(Ω-1)/(4.5-1)が一般化できる関係式であるか検証する計画である。
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