本年度は毛髪試料についてはLA/ICP-MSによる鉛同位体比測定およびマッピング、爪については鉛同位体比測定について検討を行った。毛髪試料については単一試料での測定を試みたが困難であった。そこで毛髪10本を高純度石英ガラスに固定することで、これまでより少量の試料での測定が可能となった。しかし精度が不十分だったので改良を試みたが、一因と考えられるメモリー効果やコンタミネーションの低減に充分な効果は見出せなかった。また、毛髪成長方向に鉛同位体比測定を行ったが、差異は見られなかった。同一人物が大きな環境の変化等がない場合は鉛同位体比に変動がないことが推測されるので、居住地や食事、環境が大きく変化したヒトの同位体比測定が必要であると考えられる。毛髪中でのマッピング可能な元素についてはMg、AL、S、Co、Cu、Zn、Se、Sr、Ag、Pbを特定できた。これらのうち、SとZnは毛髪の部分によらずカウント数にほとんど変動が見られなかった。特にSは毛髪の主成分あるタンパク質中に多く含まれることから強度に変動が見られなかったものと考えられる。定量分析において毛髪と同様の形状をもつ標準物質の調製が困難なため、強度比による定量分析を行う予定であるが、Sはその基準元素として有力であることが分かった。しかし、今年度は各元素の変動の傾向を見出すことはできたが、毛髪試料の特性である成長と変動位置の正確な特定や比較には、試料固定法などが不十分であった。 爪試料は厚み、大きさ等形状に個人差が大きいが、毛髪に比べ広い面積での照射が可能であり、試料表面を平坦に調製することで測定の安定化を計った。
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