本研究の目的は、電磁界が生体に対して「無害」なのか「有害」なのか「有益」なのかを細胞レベルで明らかにすることである。今年度は、目的達成のために、サイトカインによるインスリン分泌細胞の障害に対する極低周波電磁界の影響を評価した。サイトカインによるインスリン分泌細胞の障害による生存、機能の低下は、糖尿病の発症に大きく関与している。また、極低周波電磁界は、家電製品や送電線周囲に漏えいしていて、日常生活において我々がばく露される機会の多い電磁界である。すなわち、今年度は、罹患率の上昇が著しい糖尿病の発症において重要な生物学的現象に対し、我々が日常生活においてばく露される機会の多い極低周波電磁界の影響を評価した。 ラット由来インスリン分泌細胞株RINm5Fをサイトカイン(インターロイキン-1β+インターフェロン-γ)で3日間処理して細胞生存、機能を障害した。サイトカイン処理期間中、細胞に極低周波電磁界(50ヘルツ5ミリテスラ)をばく露し、サイトカインによる細胞生存、機能への障害に対する電磁界の影響を評価した。評価は、細胞活性(ミトコンドリアの活性を指標とするWST-1アッセイ)、細胞内インスーリン含量(ELISA法)、インスリン遺伝子の発現(リアルタイムRT-PCR法)を解析することによって行なった。 極低周波電磁界ばく露によって、サイトカイン処理による細胞活性の低下、インスリン含量の低下が1〜2割増加した。サイトカイン処理によるインスリン遺伝子の発現低下は、極低周波電磁界ばく露によって変化しなかった。今回検討した5ミリテスラは、送電線や家電製品から漏えいしている電磁界の磁束密度よりも約100倍程度も高い。今後、磁束密度を小さくしての検討や、定常磁場での検討、サイトカインによる細胞障害シグナルに対する影響評価に関しても検討を進めていく予定である。
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