研究概要 |
本研究は、ヒトにおける変異誘導調節に関する分子生理メカニズムの解明を目的としている。その生理機構は、(1)サイトカイン様血清因子の血液中でのクロストーク的変動→(2)放射線照射直後のプロテアーゼの活性化を伴うシャペロン分子などの発現誘導→(3)核酸代謝の変動→変異誘導の調節である。3年間の研究ては(1)、(2)、(3)の分子機構の解明を中心に進め、次の研究項目を実施し、新たな知見を得た。(1)シャペロン結合タンパク・プロテアーゼの解析;HSP27との結合を見出したアネキシンIIが、細胞の紫外線感受性に関わり、変異誘導を調節するとの示唆を得た(Biosci.Biotec.Biochem., 73, 1318-1322, 2009)。(2)放射線照射後の核酸代謝メカニズムの解明;X線照射後のDNA合成調節機構にSUMOとNM23-H1タンパクが関わることが示唆された(Arch.Biochem.Biophys., 486, 81-87, 2009)。(3)マイクロRNAの解析;変異誘導調節にマイクロRNAが関与するか調へるため、放射線による変異誘導頻度の異なるヒト細胞株間で、アレイを用いたマイクロRNAの発現量の比較解析を行った。細胞株間で、発現量の異なる複数のマイクロRNAか同定され、現在、候補マイクロRNA分子の機能解析を進めている。以上の研究成果は、未だ分子機構が判然としないclastogenic factorやバイスタンダードの効果をも包容した変異誘導調節というヒトの新しいホメオスターシスのメカニズムの一端を解明し、将来、そのホメオスターシスの調節方法が開発され、放射線被曝対処法や制癌などの研究で新たな手法を提供することも期待される。
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