「放射線によってC3Hマウスのマクロファージに誘発されるアポトーシスはDNA2重鎖切断によるATM/ATR/DNA-PKの活性化を介する蛋白質合成の抑制に依存する」という仮説を検証し、その細胞内分子経路及びC3Hマウスと他系統マウスでマクロファージの放射線応答の相違を生み出す分子を同定することを目指し、本年度は以下の研究を実施した。 1.DNA2重鎖切断がC3Hマウスのマクロファージに特異的にアポトーシスを誘発することを証明するためにDNA2重鎖切断を誘発するトポイソメラーゼII阻害剤であるエトポシドをマクロファージに曝露し、或いはブラントエンドを形成する制限酵素PvuIIをHVJエンベロップベクターキットGenomONE^<TM>(石原産業)によりマクロファージ細胞内に導入した後、アポトーシスの形態的及び生化学的(カスパーゼ活性の上昇)定量化、^<35>S-標識アミノ酸の取込量によるタンパク合成能とウェスタンブロットによるMcl-1タンパク量の定量化を行い、放射線と同様にC3Hマウスのマクロファージにおいて特異的にタンパク合成能の低下、Mcl-1タンパクの減少、アポトーシスの誘発が認められた。 2.DNA2重鎖切断に対する細胞応答及び修復に関与するATM、ATR、DNA-PK等の分子が放射線によるアポトーシス誘発、タンパク合成抑制に関与することを明らかにするため、C3Hバックグラウンドのatmノックアウトマウス、p53ノックアウトマウス、scidマウスと野生型マウスのマクロファージの放射線応答を比較したが相違は全く認められなかった。一方、翻訳の制御に関与するタンパク質の放射線誘発リン酸化がATM/ATR阻害剤であるカフェインによって阻害されることから、ATM/ATRの両分子が相補的にC3Hマウスのマクロファージの放射線誘発アポトーシスに関与することが明らかになった。
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