放射線によってC3Hマウスのマクロファージに系統特異的に誘発されるアポトーシスはDNA2重鎖切断が何らかの細胞内シグナル伝達系を介してタンパク質の合成を阻害することに起因することを明らかにしてきた。本年度はC3HマウスのマクロファージにおいてDNA2重鎖切断がタンパク質合成阻害を惹起する分子機構の解明に着手した。具体的には種々のストレスによってリン酸化修飾を受け、それによって細胞のタンパク質翻訳能を制御することが明らかになっているeIF2αに着目し、放射線によるeIF2αのリン酸化を部位特異的な抗リン酸化抗体を使用したウェスタンブロットにより調べたところ、C3Hマウスのマクロファージでは線量依存的にリン酸化が昂進するが、B6マウスのマクロファージでは放射線に全く応答しないことが分かった。eIF2αのリン酸化酵素として同定されている4種のタンパク質(PKR、PERK、GCN2、HRI)のうち、酵素活性とリンクした自己リン酸化部位のリン酸化を認識する抗リン酸化抗体が開発されているPKR、PERK、GCN2について自己リン酸化が放射線により亢進するかイムノブロットで調べたところ、PKR、PERKは放射線に全く応答しなかった。一方、GCN2は発現量が少なく通常のイムノブロットでは検出不能であったが、免疫沈降による濃縮後イムノブロットで検出するとC3Hマウスのマクロファージで特異的にリン酸化が放射線により顕著に亢進した。GCN2は細胞内のアミノ酸欠乏によりアミノアシル化されないtRNAがGCN2分子のC末に存在するHistidyl-tRNA Synthetase-related domainに結合することにより活性化されると考えられているので^<14>C-標識アミノ酸の取り込み実験を行ったところ、C3Hマウスのマクロファージ細胞内で放射線によりアミノ酸の欠乏は生じないことが明らかになった。
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