放射線はDNAに損傷を起こし、ガンや遺伝病等を誘発する。従って、医療放射線、飛行環境、原子力事故等を主な線源とする放射線の人体への影響の解明は安全性評価や放射線防護の実際に即して今後の重要な課題である。他方、これまで主に培養細胞を材料とした解析により得られてきた「分子レベルでの放射線応答機構の解析結果」を実際の人体の放射線影響の解明とリスク評価の精度向上に役立てるには、今後、培養細胞での解析に加えて、非ヒトモデル哺乳類個体を材料とした分子レベルでの解析が不可欠とされている。 本年度は、DNA修復蛋白質Ku70の挙動と損傷した細胞の運命をトレースするためのDNA損傷センサーマウスを開発することを目的に研究をスタートした。トランスジェニックマウスの作出を成功させる為には、導入遺伝子の構築が重要であるが、中でもプロモーターの選択は重要である。そこで、本研究では皮膚で十分な発現量が期待されるプロモーターの選択を行った。はじめに、予備実験を行い外来性のセンサーとして利用するGFP融合Ku70蛋白質の発現を皮膚の上皮細胞で恒常的に強力に誘導するプロモーターとして、ケラチン分子種のプロモーターを選択した。次いで、遺伝子工学技法により、プロモーターの下流にGFPを融合したKu70遺伝子を連結した発現(プラスミド)ベクターを構築した。次いで、発現ベクターを大腸菌で大量複製した後に、制限酵素処理により、GFP-Ku70とプロモーター領域、TATA配列、ポリAシグナル等からなる発現に必要な最小限の遺伝子断片にし、導入用に精製を行った。それから、定法に従いトランスジェニックマウス(C57BL/6J)を作出し、遺伝子導入の可否を尾由来のゲノムDNAを材料に特異プライマーを用いたPCR法により行った。その結果、複数の遺伝子導入されたマウスが検出された。また、非侵襲で経時的に解析するための損傷イメージング実験システムの構築に向けた基礎実験を開始した。
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