放射線はDNAに損傷を起こし、ガンや遺伝病等を誘発する。従って、医療放射線、飛行環境、原子力事故等を主な線源とする放射線の人体への影響の解明は安全性評価や放射線防護の実際に即して今後の重要な課題である。他方、これまで主に培養細胞を材料とした解析により得られてきた「分子レベルでの放射線応答機構の解析結果」を実際の人体の放射線影響の解明とリスク評価の精度向上に役立てるには、今後、培養細胞での解析に加えて、非ヒトモデル哺乳類個体を材料とした分子レベルでの解析が不可欠とされている。21年度は、GFP-Ku70を皮膚表皮基底細胞で発現するマウスの有効性の検証を引き続き行った。同時に、非侵襲で経時的に解析するための損傷イメージング実験システムの構築を目指し実験を行った。前年度までに作出した複数系統のマウスについて産子への遺伝子導入の可否を尾由来のゲノムDNAを材料に特異プライマーを用いたPCR法により確認した。その結果、生殖細胞を通じて導入遺伝子が子孫に遺伝することを確認できた。次に、導入遺伝子が安定して発現することを確認するために、皮膚を材料に導入遺伝子産物の発現量をウエスタンブロット法と細胞染色法で検証を行った。その結果、全ての系統で十分な発現量が得られていないことが明らかになった。そこで、発現ベクターを再構築し直し、常法に従い、再度、トランスジェニックマウス(C57BL/6J)を作出した。それから、得られた産子の遺伝子導入の可否を尾由来のゲノムDNAを材料に特異プライマーを用いたPCR法により行った。その結果、4匹のマウスのゲノムDNAから導入した遺伝子断片が検出された。また、皮膚の一部について導入遺伝子産物の発現を確認したところ、十分な発現量が得られていた。同時に、損傷イメージング実験システムの構築に向けて、種々の条件検索のための基礎実験を培養細胞やマウス個体を用いて進めた。
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