放射線はDNAに損傷を起こし、ガンや遺伝病等を誘発する。従って、医療放射線、飛行環境、原子力事故等を主な線源とする放射線の人体への影響の解明は安全性評価や放射線防護の実際に即して今後の重要な課題である。他方、これまで主に培養細胞を材料とした解析により得られてきた「分子レベルでの放射線応答機構の解析結果」を実際の人体の放射線影響の解明とリスク評価の精度向上に役立てるには、今後、培養細胞での解析に加えて、非ヒトモデル哺乳類個体を材料とした分子レベルでの解析が不可欠とされている。22年度は、GFP-Ku70を皮膚表皮基底細胞で発現するマウスの開発とそのマウス系統の樹立を目指して、引き続き実験を行った。同時に、非侵襲で経時的に解析するための損傷イメージング実験システムの構築を目指して、培養細胞やマウス個体を材料に種々の基礎実験を進めた。前年度までに再構築し直した発現ベクターにより作出した複数のトランスジェニック(Tg)マウス(C57BL/6J)系統について産子への遺伝子導入の可否を、特異プライマーを用いたPCR法により解析した。その結果、導入遺伝子が生殖細胞を通じて子孫に安定に遺伝することを、尾由来のゲノムDNAを材料に再確認できた。次に、導入遺伝子が安定して発現することを確認するために、子孫マウスの皮膚を材料に導入遺伝子産物の発現量をウエスタンブロット法で検証した。その結果、少なくとも一系統では十分な発現量が得られていることが明らかになった。以上の結果は、GFP-Ku70を皮膚表皮基底細胞で発現するマウス系統が得られたことを示唆する。ところで、これまでのところTGマウス(♀)からの子孫は得られたが、TGマウス(♂)からの子孫は得られていない。尚、この雌雄差については例数が少ないので、今後、更に検討する必要がある。
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