本申請研究では、汚染化学物質や金属イオンが海産動物ホヤに与える影響を評価する上で、DNAマイクロアレイを用いて遺伝子発現の変動を検出する方法と、従来の表現形の異常を検出する方法とを組み合わせることにより、新しい生物学的影響評価方法を確立することを目指す。今年度は、人為的に有機スズを暴露させたカタュウレイボヤ成体サンプルを作製し、個体別にRNAを調製してDNAアレイ解析を実施した。100nMトリブチルスズ24時間暴露実験の複数のアレイデータを比較することによって、有機スズ暴露によって発現が亢進する遺伝子188個、発現が低下する遺伝子238個を検出した。発現が亢進する遺伝子の機能的なカテゴリーを調べると、シグナル伝達関連、トランスポート関連、酸化還元関連の遺伝子が多く、解毒代謝酵素やストレス応答遺伝子も含まれていた。発現が低下する遺伝子には、細胞外マトリックスや細胞骨格系の遺伝子、免疫関連遺伝子が含まれていた。さらに、10ppbトリブチルスズ3日間暴露、5ppbトリフェニルスズ3日間暴露のホヤサンプルRNAを用いたRT-PCR解析を実施することによって、異なる濃度、期間の暴露でも有機スズに応答するホヤ遺伝子を約60個に絞り込んだ。これらの遺伝子について、韓国沿岸と舞鶴湾で採集した野生カタユウレイボヤ体内での発現をRT-PCR解析によって調べたところ、有機スズの体内蓄積量が高い韓国のホヤで、有機スズの蓄積が全くない舞鶴のホヤに比べて発現が有意に亢進あるいは低下している遺伝子が約20個見いだされた。これらの遺伝子は、野生ホヤの有機スズ汚染の指標遺伝子になると考えられる。
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