本申請研究では、汚染化学物質や金属イオンが海産動物ホヤに与える影響を評価する上で、DNAマイクロアレイを用いて遺伝子発現の変動を検出する方法と、従来の表現型の異常を検出する方法とを組み合わせることにより、新しい生物学的影響評価方法を確立することを目指している。今年度は、人為的に内分泌撹乱物質(ノニルフェノール;NP、オクチルフェノール;OP、ビスフェノールA;BPA)を暴露したカタユウレイボヤ成体サンプルを作製し、個体別にRNAを調製してDNAマイクロアレイ解析を実施した。また、ホヤ受精卵および幼生を用いた胚発生および変態阻害の大量アッセイ系を構築し、内分泌撹乱物質の影響を調べた。その結果、1000ppbのNPとOPにおいて50%程度の変態、固着阻害が観察された。両化合物はこの濃度では胚発生に影響を及ぼさないので、両化合物がホヤの遺伝子発現に影響を及ぼす可能性よりも、両化合物が有する界面活性作用によってホヤ幼生の固着・変態が阻害された可能性を考えている。現在、3種類の内分泌撹乱物質暴露ホヤの遺伝子発現プロファイルの詳細な解析を行なっているが、NP暴露ホヤでは生殖組織特異的な遺伝子群の発現低下が多いことが見いだされている。このことは、NPはホヤの胚発生には大きな影響を及ぼさないが、生殖組織の発達に影響を及ぼす可能性を示唆しており、エストロゲン受容体をゲノム上に持たないホヤにおけるNPの作用機構が興味深く、今後の課題である。
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