我々は海産無脊椎動物ホヤを用いて、海洋汚染化学物質の影響評価系の構築や作用機構の解明をめざしている。H22年度は以下の知見を得た。1)有機スズ汚染マーカー遺伝子の探索に取り組み、人為的な有機スズ曝露ホヤにおいてコントロールに比べて発現が亢進する遺伝子14個、低下する遺伝子20個を明らかにした。有機スズが高濃度蓄積されている韓国産と有機スズが検出されない舞鶴産のカタユウレイボヤを用いて34個の遺伝子について発現レベルを調べたところ、9個の遺伝子(熱ショック蛋白質2種類、解毒代謝酵素2種類、酸化還元酵素2種類、機能未知タンパク質をコードしている遺伝子3種類)が人為的有機スズ暴露ホヤと同じ発現パターンを示していることを見出した。この内、熱ショック蛋白質と解毒代謝酵素は有機スズ蓄積量の多い韓国産ホヤで高い発現を示し、一方、酸化還元酵素は韓国産ホヤで発現量が著しく低下していた。これら9個の遺伝子は、野生ホヤの有機スズ汚染をモニタリングする上で指標として使える可能性がある。2)鉛フリーはんだの代替金属として用いられているビスマスやインジウム等の海産動物に与える影響を調べる目的で、それら金属イオンのホヤ胚発生、変態に対する影響を調べた。鉛および代替金属はいずれも10ppm以下ではホヤの胚発生や変態に影響を及ぼさなかった。さらに、それらの金属に曝露したホヤサンプルを作製してアレイ解析を行った。現在、データの詳細な解析を実施している。
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