研究概要 |
はじめに 紫外線吸収剤はプラスチック製品・衣料晶・日焼け止め剤・化粧品等の日常生活品に含まれ、近年、世界的に使用量・使用品目の増加が認められる人工化学物質である。ところが、欧州では紫外線吸収剤による生態系汚染が顕在化しており、この種の環境負荷を低減する対策が検討されているが、日本ではこうした動きは少ない。そこで本研究は、4種類の紫外線吸収剤を対象に様々な環境試料を分析し、その汚染実態解明のための調査研究を試みた。 試料と方法 目本沿岸の複数地点から牡蠣を採集し、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(UV-320,UV-326,UV-327,UV-328)を対象に分析を行った。試料はソックスレー抽出を行い、ゲル濾過カラム、シリカゲルカラムでそれぞれクリーンアップした後GC-MSで定性定量を行った。 結果と考察 分析の結果、全ての試料から紫外線吸収剤が検出され、本物質による日本沿岸の汚染が確認された。大阪湾産カキ試料の場合、UV-326のリテンションタイムおよびフラグメントパターンは、標準溶液とカキ試料間で極めて類似していた。カキ体内のUV-326濃度は1,100〜3,640ng/g(脂肪重当たり)と比較的高く、また同試料からUV-320の残留も認められた。さらに、熊本県と鹿児島県沿岸のカキ試料にもUV-326が蓄積していた。UV-326のlog Kow値および生物濃縮係数はそれぞれ7.292±0.437、59,100と高値であり、そのことが生物に蓄積されやすい要因の一つであると思われた。
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