研究概要 |
食品や環境中から取り込まれる有害物質や、エネルギー代謝で発生する活性酸素種は、直接もしくは間接的にDNAや細胞、組織などに損傷を与える。こうした損傷が体内に蓄積し、老化や様々な病気の原因となる。これら"ストレス"から生体を防衛する薬毒物代謝酵素のひとつが、GST(Glutathione S-transferase)である。本研究では、モデル生物である線虫Caenorhabditis elegans(以下、線虫)を用いて、ストレスに応答して発現するGSTの発現経路を個体、細胞および分子レベルで明らかにしてゆく。 GSTの発現をGFP(Green Fluorescence Protein)の蛍光で視覚化した線虫から、GST発現に異常の起こった変異体を独立に23株分離し、4つの遺伝子グループxrep(xenobiotics response pathways)-1(16株),-2(5株),-3(1株),-4(1株)に分けることができた。有害物質がなくても恒常的にGSTを発現する変異体から、新規遺伝子xrep-1とxrep-3を同定することができ、それぞれWDリピートタンパクと塩基性ロイシンジッパー型転写因子をコードすることがわかった。XREP-1はふだんXREP-3を抑制しているが、有害物質が体内に取り込まれるとXREP-3の抑制を解放する。解放されたXREP-3が薬毒物代謝酵素GSTの発現を誘導すると考えられた。RNAi法によりxrep-1の発現を阻害すると、GSTをはじめ他の多くの薬毒物代謝酵素の発現が誘導されるため、XREP-1/XREP-3は非常に重要な生体防衛機構を構成していることがわかった。さらにXREP-1/XREP-3は、哺乳類で知られているKeap1/Nrf2と働きがよく似ているため、線虫による研究成果はヒトへの応用が期待できる。
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