本研究では、北米に自生するStanleya pinnata(スタンレア・ピナータ)のセレン耐性・高蓄積性のメカニズムを解明し、その成果をセレン高蓄積性植物の分子育種に応用することを目的とする。前年度の成果により、セレン耐性・高蓄積性を示すスタンレア・ピナータにおいてセレン耐性・高蓄積性の獲得にエチレン、ジャスモン酸等の植物の防御応答に関与する植物ホルモンが関与している可能性が示唆された。そこで本年度はセレン投与・非投与下におけるスタンレア・ピナータ及びその近縁種でありセレン耐性・高蓄積性を示さないStanleya albescens(スタンレア・アルベセンス)における植物ホルモン生成について調べた。その結果、スタンレア・ピナータではセレンを投与しない条件下でジャスモン酸、メチルジャスモン酸及びサリチル酸の含有量が高いこと、またこれらの含有量はセレン投与により低下することを見出した。一方、スタンレア・アルベセンスにおいては、これらの植物ホルモン含量はセレン投与により増加(ジャスモン酸及びメチルジャスモン酸)、又は変化しない(サリチル酸)することが明らかになった。更に、エチレン生成量はスタンレア・ピナータにおいてセレン投与により増加したが、スタンレア・アルベセンスではこのような増加は見られなかった。以上の結果からスタンレア・ピナータにおけるセレン耐性・高蓄積性の獲得に植物ホルモンが大きく関与していることが示唆された。
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