本研究では、北米に自生するStanleya pinnata(スタンレア・ピナータ)のセレン耐性・高蓄積性のメカニズムを解明し、その成果をセレン高蓄積性植物の分子育種に応用することを目的とする。前年度の成果により、セレン耐性・高蓄積性を示すスタンレア・ピナータにおいてセレン投与時にエチレン、ジャスモン酸等の植物の防御応答に関与する植物ホルモンの蓄積が確認された。そこで本年度はジャスモン酸やエチレンなどがスタンレア・ピナータにおけるセレン耐性・高蓄積性に関与しているのかについての実証実験を行った。セレンノンアキュミレーター植物であるStanleya albescens(スタンレア・アルベセンス)に濃度勾配を与えてジャスモン酸メチル(0、5、10、50、100μM)またはエチレンの前駆体である1-aminocyclopropane-1-carboxylic acid(0、5、10、50、100μM)をセレンと共に投与して栽培した。 その結果、スタンレア・アルベセンスのセレン耐性及びセレン蓄積性はそれぞれ10μMまでの植物ホルモン投与により濃度依存的に増加した。一方、これらの物資の投与によるスタンレア・ピナータにおけるセレン耐性・高蓄積性に変化は見られなかった。また、50μM以上の植物ホルモンの投与ではスタンレア・アルベセンスのセレン耐性及びセレン蓄積性に変化はみられなかった。以上の結果、スタンレア・ピナータにおける植物ホルモンの構成的な合成・蓄積がセレン耐性・高蓄積性の獲得に必要であることが示された。
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