鉛を含有する種々の黄銅合金において、加工や研磨した表面から鉛のナノウィスカーが自然発生する現象がこれまでの研究で明らかになった。また、鉛含有量の多い合金系にはウィスカーが多く観察された。鉛ウィスカーが最も多く観察された合金に集中的に実験研究を進めた結果、異なる表面研磨などの加工処理を施してから、表面における残留応力はそれほど差が大きくなかったが、ウィスカーの発生状況は著しく異なることが分かった。そこで最終年度では、黄銅合金における低融点金属鉛の挙動を調べ、ウィスカーの発生メカニズムを解明することを行なった。また、ウィスカーの発生状況に及ぼす温度の影響も調べた。 融点が室温近傍にある金属ガリウム(Ga)を含有するCr_2GaC-Ga系模型材料を用い、低融点金属ウィスカーの発生と物質移動・凝固などとの相互関係を調べたところ、金属Gaが凝固過程中に、50℃以上の過冷却現象を突き止めた。 また、同じ手法である走査型熱量分析(DSC)を用い、黄銅C3604およびリン青銅C5341を熱分析した結果、加熱中にいずれの場合にも鉛の融解吸熱ピークが確認されたが、冷却中に明白な放熱ピークが見られなかった。この現象は繰り返し加熱・冷却過程で再現され、酸化等の非可逆現象から起因する可能性を排除した。これらの結果は銅合金の中にある鉛は過冷却状態に存在し、ウィスカーの発生原因になっている可能性を示唆している。また、パフ研磨やエッチングした試料表面にウィスカーが発生しないため、予定したEBSP法での分析が不能であった。なお、長時間60℃の空気に晒されても、ウィスカーの発生が影響されなかった。
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