研究概要 |
イオン移動度測定はエアロゾル粒子やクラスターなどの構造測定に用いられているが、分解能と感度そして何よりも同一粒子を長時間測定することができなかったため、ナノ物質の構造制御などには活用できなかった。ナノ物質の成長、特にナノチューブの工業的生産には数時間以上の成長過程を継続的に観測する必要があるため、従来のイオン移動度測定は適用できない。このプロジェクトでは、イオントラップを活用した超高分解能イオン移動能装置を開発し、新たな活用法への足がかりを得た。今回開発したシステムはイオントラップを複数個用いており、電極間に20kHz,600Vppの高周波電場(RF)と数Hz,10Vppの低周波電場(LF)を印加する。RF電場の周波数はイオンの移動に比較して十分に高速のため、イオンは電場の絶対値が小さい電極中央部分に収束される。収束したイオンをLFにより大気中を移動させ移動速度や振幅を測定し、イオンの移動度および構造を推測する。これまで真空中で用いられることが多い、イオントラップを大気中など高圧ガス中で活用したことが特徴である。直径10μm、比電荷m/z=2×10^8程度の粒子である食塩水荷電微粒子を用いて装置の動作確認をしたところ、食塩水微粒子が大気への水の蒸発や大気からの水分の凝縮に対応して、サイズが数十分の時間範囲で大きくなったり、小さくなったりすることを確認した。さらに、その変化が食塩水濃度に大きく依存することが分かった。トラップされる寿命が2時間以上であることも示され、ナノ物質の成長を十分に観測できることがわかった。 さらに、このトラップ長と移動距離が500mmの装置を開発し、微粒子の重力による落下を組み合わせ、電荷と大きさを独立に測定することが可能になり、更なる高精度測定と構造分離を実現した。この装置は質量分析器にトラップした粒子を導入できるように、イオンファンネルを備え、ナノ物質の高度測定が可能である。
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