研究課題として、1.結晶表面の機械的変形、及び2.液相を経由する表面構造変化の二つを設定している。 課題1.については、格子基底面間の距離がわずかに異なるカルサイトとマグネサイトの二つの三方晶結晶で何故摩擦特性や塑性変形特性が大きく異なるかを単純な力学モデルで説明できた。国際会議での討論を経て、結果を2編の論文にまとめた。この中で、表面にかける荷重の増大にともない、特定の閾値を超えたときに結晶面間の滑り、さらに劈開が起こり、摩擦・摩耗特性が変化する理由を明らかにした。これにより、研究開始当初より目指してきたナノスケール~ミリメートルスケールでの摩擦現象を一貫して説明することに成功した。立方晶のフッ化カルシウム結晶については三つの低指数表面での荷重による変形、摩擦の強弱を比較し、また、表面にできる小さな段差を観察することにより、(001)面や(111)面では主要な{100}<110>滑りが摩擦や塑性変形を支配していること、また、等価な滑り方向を多く持つ(110)面では却って滑りが起こりにくいことなどを見出した。前述の力学モデルで摩擦の異方性を説明できた。この結果も国際会議での討論を経て、論文にまとめた。三本の結晶軸が等価ではない斜方晶の硫酸塩結晶についても特徴的な摩耗の痕跡を得た。 課題2.については三方晶のカルサイトについて、a-軸を含む三つの結晶面を切り出して溶解過程を調べることにより、電気的に中性に近い結晶面は酢酸水溶液中で比較的安定性を保つことが明らかになった。昨年度までにわかったことと合わせて検討し、カルサイト結晶の形態形成について学会で報告した。 同じ結果を論文にもまとめる。同じ組成でも結晶構造の異なるアラゴナイトについては昨年度論文にまとめているので、両者の比較は結晶面の構造と安定性の関係を議論するうえで有効であると考えている。
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