本研究では、スピン軌道相互作用などほとんど全ての相対論効果を含む電子に対する擬ポテンシャルの開発および、これらを既存の第一原理分子動力学法へ組み込む開発研究を推進した。この成果として磁気異方性およびスピン軌道相互作用によるスピン分裂(ラシュバ効果)を解析することが可能となった。また外部電場を印加できる計算コードの開発に成功し、単純な系への適用結果を学術論文として出版するに至った。詳細な研究成果について以下に記述する。 1. 白金等の金属表面にある鉄鎖を想定し、磁気異方性エネルギーの平衡原子間距離依存性を計算することにより、鉄鎖における磁気異方性の原子構造依存性を得た。この依存性を電子状態から理解することに成功した。これにより、磁気異方性をフェルミ準位付近の電子状態から理解する足がかりの一つを得たことになる。また、白金(111)表面に鉄鎖を置くことを想定して、磁気異方性エネルギーの電場依存性を調べた。これにより電場、電子状態、磁気異方性との関係を把握することに成功し、次のステップとして想定している現実系への適用へ向けて、計算の基礎固め行い、計算結果の解析の糸口をつかむことができた。 2. 白金(001)表面に鉄層を置いた系について、外部電場を印加した系の磁気異方性を計算し、外部電場による磁気異方性制御の可能性を確認した。今後、学術論文への発表等を進める。 3. 一般化された勾配補正近似(GGA(PW91)やGGA(PBE))についても、相対論的擬ポテンシャルの開発を推進した。この成果を用いて複雑な表面や界面構造をもつ系へ適用が可能となった。 4. スピン軌道相互作用によるスピン分裂を解析する計算コードの開発を推進した。
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