IV族元素をベースとしたクラスレート半導体では内包原子の局在的な振動に起因してガラス並みに低い熱伝導度を持つ。しかし、移動度が他の熱電材料に較べ相対的に低いことから、移動度の向上が課題となっている。本研究ではクラスレートの持つナノ構造に着目し、内包原子によるフォノン散乱中心からホスト格子ネットワーク内を伝導するキャリアーを空間的に分離することで移動度向上の実現を目的としている。このために、電子構造計算による理論的な手法と実際の材料合成による実現との連携により研究を実施した。今年度の研究項目およびそれに対する研究成果は以下の通りである。 1.キャリア伝導機構の解析と熱電性能予測:これまでの研究においてゲスト構造設計によりキャリア伝導経路とフォノン散乱中心の分離が可能で有ることをしており、その経路選択効果がキャリア伝導度に及ぼす効果を定量的に評価するための計算手法の開発および伝導特性の解析を行った。具体的にはタイプI構造を持つGe系クラスレート半導体およびタイプVIII構造のSn系クラスレート半導体についてキャリア伝導の解析を行った。キャリア伝導度の計算ではホスト格子の混晶化によるバンド構造の異方性に着目し、合金散乱の大きさを見積もった。これにより、いずれの場合にも実験の定性的な振る舞いを説明可能であることが明らかになった。一方、キャリア伝導度の絶対値については半分程度に過小評価される結果となった。 2.候補物質の合成と熱電特性評価:タイプI構造を持つBa-Ga-Ge系クラスレートに対しSr選択置換の検討を行い、2aサイトに60%程度まで選択的にSrを充填することに成功した。これにより、Ba-Ga-Geに較べ有効質量の増加が見られ、電子構造に影響を与えることができることが明らかになった。
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