1.モンカルロ・シミュレーション・コードの開発 エネルギー可変XPSのナノ構造物質の測定結果を解析するために、放出深さ分布関数(EDDF)を計算可能にするモンテカルロ・シミュレーション・コードの開発を行った。そのコードを使ってCuOやSiO_2の系でのEDDFを求めた。 2.ナノ粒子の放射光励起・光電子分光(XPS)解析の実施 コアシェル構造を持つナノ粒子、特にコア部が銀、シェル部がポリジアセチレンから成るナノ粒子について、エネルギー可変XPS解析を行ったところ、シェル部が稠密でないことが分かった。透過電子顕微鏡による透過像の観察では一見稠密に見えていたシェル部が、エネルギー可変XPS解析の結果から細かい隙間を多く持つ構造であることが分かった。剛直な分子鎖を持つポリジアセチレン分子が、ナノレベルの曲率を持つコアを稠密に覆うことは、分子鎖に大きな構造歪みを与えることを意味しており、その大きな構造歪みを回避するために複数個のポリジアセチレン分子が細かい隙間を作りながらコアを覆っていると、今回の結果から結論付けられた。本研究の目的において、コア・シェル構造を持つナノ粒子をメインのターゲット物質としていたが、その際にシェル物質は稠密で一様であるとの前提に立っていた。ところが現実のコア・シェル構造を持つナノ粒子はその前提が成り立たない場合があることが分かった。そのため、「エネルギー可変XPS解析」を稠密でない複雑な構造を持つナノ物質にも対応できるように今後展開する必要がある。XPS解析において、複雑な構造をもつ物質の解析に対して、光電子ピークだけでなくその光電子が物質内部において非弾性散乱を受けたいわゆるバックグラウンド・スペクトルを解析する手法がある。その解析にあたっては、その対象物質の誘電関数を事前に知る必要があり、電子分光スペクトルから誘電関数を求める手法の開発に着手した。
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