近年目覚ましい発展をしている高エネルギーX線を使った硬X線光電子分光(HX-XPS)において、エネルギー可変・角度可変の測定による非破壊断層解析の定量性向上が求められている。本研究では、光電子の放出過程および固体内での伝搬過程を精密に評価することが上記の定量性向上のキーポイントであると考え、光電子発生時の非対称パラメーターやそれを考慮した光電子放出放出深さ方向分布関数(EDDF)を、放射光実験ならびにモンテカルロ・シミュレーションを使って行い、現状で最も精密な光電子を使った非破壊断層解析の解析アルゴリズムを確立した。ただし、この解析アルゴリズムを様々なナノ構造を持つ物質系に適用するには、(解析アルゴリズムで用いるEDDFは物質の種類によって異なるため)各物質における光電子の減衰を記述するエネルギー損失関数を求め、そのエネルギー損失関数を使ってEDDFを求める必要がある。現実には、エネルギー損失関数は限られた物質でしか求まっていないという状況がある。そこで本研究では、エネルギー損失関数を反射電子エネルギー損失分光法(REELS)を使って実験的にかつ実用的に求める新たな手法の開発も行った。エネルギー可変HX-XPSの解析の実用材料系への応用として、コアシェル構造を持つナノ粒子、特にコア部が銀でシェル部がポリジアセチレンから成るナノ粒子について解析を行った。
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