研究課題
発現しているタンパク質の種類が、数分程度で変化する細胞膜のタンパク質分子を、in situで迅速に検出・同定するための有効な測定手段として表面増強ラマン散乱(SERS)に着目して、その有効性を検証することが本研究の目的である。溶液中で銀ナノ粒子と共存させた1個の出芽酵母細胞を、白色光を用いて暗視野照明すると輝点が観測される。この輝点は白色光が銀ナノ粒子により弾性散乱された結果である。次に、光源を単色のレーザ光(532nm)に代え、同じ視野を照射すると黄~橙色の輝点が弾性散乱輝点と同じ場所で観測される。この輝点は、SERS活性を示す一部の銀ナノ粒子に吸着した分子が与える、表面増強ラマン散乱(SERS)に起因する。この散乱光のスペクトルを参照試料のラマンスペクトルと比較した結果、マンノタンパク質由来であることが明らかになった。さらに、1個の出芽酵母細胞の分裂過程を同じ視野で弾性散乱像とSERS像を観測すると、出芽の初期過程では、その出芽部分には暗視野照明輝点が観測されず、もちろんSERS像も観測されない。出芽が進み出芽部位が大きくなるにつれて輝点が観測され、細胞分裂が起こる直前では親細胞と同様に弾性散乱像とSERS像が観測された。この結果の意義は、SERSのもつ高感度かつ高い分子識別力を生かして、初めて、細胞表面におけるマンノタンパク質の発現過程を実時間でモニターすることに成功したことである。酵母の分裂過程を蛍光染色等の侵襲的な方法ではなく、非侵襲に近い条件で可視化できたことは極めて重要である。さらに、スペクトルの帰属をより確実にするために、ラマンスペクトルに対して相補的な情報、すなわち赤外活性な分子振動モードに起因するスペクトルを測定できる表面増強ハイパーラマン散乱スペクトルを測定するためにパルスレーザを導入した。銀よりも侵襲性の小さい金ナノ粒子も用いた研究を継続中である。
すべて 2010 2009 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (4件) 備考 (1件)
Anal.Chem. 82
ページ: 1342-1348
Anal.Bioanal. Chem. 394
ページ: 1803-1809
産総研TODAY 9(9)
ページ: 4
http://www.aist.go.jp/aist_j/aistinfo/aist_today/vol09_09/vol09_09_main.html