「ガラスキャピラリー」と呼ばれる長さ数cm程度のテーパーの付いたガラス細管を用いて荷電粒子ビームを集束させることで、ナノメートルオーダー径の量子ビームが容易に生成できる。本研究は、初期投資額の圧縮、照射のしやすさ、さらにサンプル条件の自由度向上を長所として、量子ビームの応用範囲の拡大を目的としており、次の2種類の集束装置の開発を行なう。 (1)数100V~20kV加速の集束多価イオンビームで改質を行なう表面微細加工装置:キャピラリーを真空内ビームライン上に精度よくマウントするためのゴニオメータを設計および製作をした。照射線量の評価では、多価イオン衝突による生成2次電子を検出することで衝突個数を計数する。バックグラウンドとして、一次ビームがキャピラリー入口のマスクで大量の2次電子を生成してしまうが、サプレッサーおよび遮蔽板で、実用的なバックグラウンドレートである毎秒約1個以下まで抑制できた。これにより照射線量を正しく評価することが可能となった。サンプルとしてHOPGなどのグラファイトを用いると照射痕として直径約1nmの隆起(ナノドット)が生成される。1月現在、このナノドットを高密度で生成させ表面改質を行ない、ピエゾステージを用いて描画する準備を行なっている。 (2)更に高い運動エネルギーのH、Heイオンを生細胞内小器官に照射するための、フタ付キャピラリーによる細胞照射用集束ビーム出射装置:我々が開発したキャピラリー出口のフタはガラス製であったので、当初は液体シンチレータへの照射により照射線量の可視化および定量化を予定していたが、プラスチックシンチ製フタを考案し、リアルタイム線量評価を示した。生細胞に負担の少ないブタ材にするため、原材料形状や製法を検討した。試作品はフタ厚5μmで、大気圧にも耐え、ビーム強度の変動も市販の顕微鏡用CCDで可視化できることを確認した。
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