「ガラスキャピラリー」と呼ばれる長さが数cm程度でテーパーの付いたガラス細管を用いて荷電粒子ビームを集束させ、ナノメートルオーダー径の量子ビームが容易に生成できる装置を開発している。今年度は、次の(1)および(2)に関する開発を行なった。 (1)数100V~10kV加速(低速と呼ぶ)の集束多価イオンビーム表面微細加工装置のための集束性能:このエネルギー領域ではビームはガラスキャピラリーのチャージアップによってガイドされる。チャージアップが十分に大きくなるとガラスという大きな抵抗を持つ絶縁体でもresistive switchingと呼ばれる現象が起こり速やかな放電がおこる可能性を見出した。一方、チャージアップはビーム自身がガラスキャピラリー内壁に衝突することによって起こるが、キャピラリーに分割電極を取り付け、それぞれの電極に独立に電圧を印加することで衝突頻度を変化させ、キャピラリーを通過する電流値が制御できることを示した。また、ガラスを経由するleak currentを場所依存で測定できる多チャンネル電流アンプも導入した。これらをもとに、当初の目的通り、低速多価イオンマイクロビームの取り出し電流を増加させることに成功し、また、希望する出口径を持つ先端部だけを取り外し可能にして使い勝手も向上させた。 (2)更に高い運動エネルギーのH、Heイオンを生細胞内小器官に照射するための、フタ付キャピラリーによる細胞照射用集束ビーム出射装置:今まで数MeVイオンでは非常に困難であった、細胞への照射イオンを1個単位で計数する装置を中心に研究開発を行った。キャピラリーから出射する直前(=細胞に照射する直前)に各イオンは必ずフタを通過する。そこでフタをシンチレータに置き換え、生物学実験の環境を壊すことなく顕微鏡経由でシンチレーション光を集める装置を開発し、イオン1個単位で計数が可能であることを示した。
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