昨年度、分子アレイを基板に垂直に配置するために、分子アレイに三脚状のアンカー分子を結合し、三脚端のSH基で金基板表面に結合させることを試み、STM観察による確認を行ったが、分子が固まりで存在し分子配列を示す明確な像は得られなかった。本年度は、三脚状アンカー単体分子を新規に合成し、分子アレイを結合した三脚状アンカー分子と共吸着させることで、分子アレイを金基板表面に分散固定することを試みた。この試料のSTM観察を試みたところ、分子アレイは均等には分散しておらず相分離様態を示したが、分子アレイが集まっている部分では、基板に対して垂直に結合していることを示唆する明確な配列構造を観測することに成功した。このように、分子アレイが三脚状アンカー分子を介して垂直に配列している場合に、光励起された分子からの蛍光の失活が抑えられることを、電磁気学的手法により解析した。この解析では、金属表面から一定距離離れた位置に配置した励起双極子の励起寿命の変化を距離の関数で見積もった。Zn-ポルフィリンは三脚分子アンカー分子を介し基板表面から2.2nm離れて位置するが、この場合には金属基板へのエネルギー移動が1/2以下に抑えられ、効果的な蛍光輻射が得られることを確認した。Fb-ポルフィリンは更に2nm金属表面から離れていることから、さらに失活を抑えることが出来る。このことは、金属表面を伝搬するプラズモン超集束により回折限界以下に集束した光エネルギーを効果的に分子素子にエネルギー移動させることが可能であることを示している。固定された分子アレイの光励起における多光子吸収を回避するために、音響光学素子を用いたパルス伸張を試みたが、多光子吸収を回避するのに十分なパルス神張は得られていない。多光子吸収による分解を抑えるためには、今後、低温真空下での測定など他の方法も検討する必要がある。
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