研究概要 |
企業の規模を表す量として資本・売上・利益・所得・従業員数などが考えられるが,そのいずれもが,ある閾値以上の大規模領域で幕則に従い,それ以下の中規模領域で対数正規分布に従うことが知られている。最近の研究によりこの現象は,経済の平衡状態を表す詳細釣合則と,企業規模による成長率分布の違いを示すGibrat則および非-Gibrat則から理解できるようになった。さらに本研究課題の昨年度までの研究の結果,企業規模量の種類によりタイプの異なる2種類の非-Gibrat則が存在することが明らかにされた。そして2種類の非-Gibrat則の違いは,対象とする企業規模量が売上のように加算的に正の値しか取らない量なのか,あるいは利益のように正と負両方の値を取る量なのかの違いに起因すると推測される。これらの分析は,独立行政法人経済産業研究所に所蔵されている,中規模以上の日本企業財務データをほぼ網羅しているデータベースを対象として行われた。 当該年度は,上記分析の精度を上げると同時に,一橋大学経済研究所が所蔵する世界各国の企業財務データベースを利用し,日本企業に対して行ってきた分析を世界各国に適用する予備的な分析を進めた。さらに新たな企業規模量として,企業の技術(全要素生産性)にも注目し,詳細な企業財務データベースより計算した各企業の技術に対しても,昨年度までに確立した分析を適用する予備的な分析を進めた。 以上は,経済の準静的な変化や企業規模,さらに注目する企業規模量による成長率の違いを考慮した金融機関の信用リスク管理,企業の信用リスク管理,税制上のリスク管理の研究には本質的であると考えられる。
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