研究概要 |
本年度は,研究計画に基づき以下のように研究を実施した. 基本モデルである後藤・高嶋・辻村(2007)(これ以降,GTT)では,経済活動に伴って排出される汚染物質から損害を被っている経済主体が,汚染物質を削減するために,削減費用は安いが削減量が少ない政策と,削減費用は高いが削減量は多い政策の2種類の環境政策を実施可能だと想定し分析を行った.このGTTでは,環境政策の実施が,汚染物質のストック量とは独立に定まっていたが,それを汚染物質のストック量にも依存した環境政策を分析した.更に,定数として与えられている政策実施費用を,汚染物質の削減量に比例した費用(比例費用)と,それとは独立にかかる費用(固定費用)を考慮し分析を行った. 現実の汚染物質から被る損害は,現在排出されている汚染物質と,既に排出され自然界に蓄積されている汚染物質のストックの両方からなると考えられる.したがって,本年度実施した研究は,より現実を反映させた研究であるといえる.また,これまでの,リアルオプション・アプローチを用いた資源・環境政策の分析は,単一の政策についての研究がほとんどであり,本研究のように代替的な政策も考慮した研究は,これまでほとんどなされてこなかった.しかし,現実には,政策の意思決定主体は,いくつもの政策選択肢を所有しており,その中から最適な政策を選択することが可能である.このような現実に対応した政策に対する研究成果が求められている.その社会的な要求に応えようとする本研究は,実際のデータを用い,実際の資源・環境政策への示唆を明らかとすることで,我々が直面している多くの資源・環境問題への提言が可能となり,学術的な貢献ばかりではなく社会的な貢献も,大いに期待されるといえよう.
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