A.コンピューターを用いる分子情報の理論計算(今坂智子) 過酸化アセトン(TATP)などの爆発物やダイオキシン類などの危険物質の電子状態はほとんど測定されておらず、励起・イオン化に最適なレーザー波長などの分析条件は分かっていない。そこで、量子化学計算および量子統計熱力学計算を用いて、分析条件および物性を理論的に予測した。 ・量子化学計算・・昨年度の質量分析実験より、TATPと溶媒がクラスターを形成する可能性もあることが示唆された。よって、TATPとアセトニトリルを溶媒とした種々のクラスターを想定し、密度汎関数法を用いて電子基底状態の最適化構造とその電子エネルギーおよび振動波長を求めた。また、クラスターのドナー・アクセプター相互作用を見積もるため、自然結合軌道法を用いて電子移動の安定化エネルギーも求めた。さらに、反応速度を求めるため遷移状態も探索した。全ての計算で、基底関数にはDunningの分極関数を含んだcc-pVDZを用いた。 ・分子統計熱力学計算・・量子化学計算の結果を元に、圧平衡定数や濃度平衡定数を求め、気体中及び液体中のクラスターの存在比率を求めた。 B.超短パルスイオン化方式による質量分析の研究(今坂藤太郎、今坂智子) チタンサファイアレーザーを用いて複数の発振線を発生させ、その位相同期により超短パルス光を発生させた。この超短パルスレーザーをイオン化源とする多光子イオン化/飛行時間型質量分析計をガスクロマトグラフ装置と組み合わせることにより、危険(爆発)物質であるTATPを分析した。TATPには複数の立体異性体があり、またTATPと溶媒分子とのクラスター形成の可能性を考慮し、アセトニトリルを溶媒として測定を試み、複数の成分を検出した。
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