研究概要 |
近年,住宅の高気密高断熱化が普及しており,一端,火災が起きると低酸素濃度環境が形成される.その結果,居住者は,OA機器に使用されるアクリル樹脂,ABS樹脂,寝具や座布団に使用されるポリウレタンや新建材から発生した一酸化炭素,シアン化水素,塩化水素,ホルムアルデヒド,アンモニアなどの有毒ガスに暴露される.火災ガスの毒性評価は,従来までラットやマウスなどの動物実験をモデル火災建物あるいは燃焼装置を用いて行われてきた.昨今,欧州を中心に動物実験を廃止もしくは最小限に抑制する世界的な動きがある.本研究は,気密性建築物火災等で起こる低酸素濃度環境で生成する火災ガスが,居住者や消防職員に与える生理的影響をセルライン細胞により構築した呼吸器・代謝系の非動物実験において明確にし,火災ガスの基礎的毒物性の評価を行った. 試験材料として,シアン化水素発生源であるポリウレタン,ポリアミド,ポリアクリロニトリル,ABS樹脂の4種,生分解性プラスチックのポリ乳酸を選定した.卓上焼却炉に試験材料を入れて一定温度で加熱する.燃焼ガスは,冷却管を通り,CO2インキュベーターに設置した角形ジャーに導く.角形ジャー内部には培養ディシュに播種したA549を設置する.比較対照としてCO2インキュベーターに火災ガスに暴露されない培養ディシュのA549を設置する.シアン化水素は,ガスクロマトグラフFTD検出器で測定する. コントロールとして火災ガスに暴露されていないA549の増殖曲線を得た.A549は,誘導期0~3日,対数増幅期3~15日であった.この結果から,今後の火災ガス実験において暴露期間は14日とする.卓上焼却炉でポリウレタンを燃焼させた結果,シアン化水素の発生が30ppm以上であることをシアン化水素濃度計で確認した.今後,本実験装置でA549に対する火災ガス暴露実験を行い,コントロールとの比較を行う.
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