研究概要 |
現在,長大にして局所性の高い河川堤防の安全性を全川に亘って効率的に診断できる手法は存在せず,その開発が急務となっている.本研究では,河川堤防の浸透性破壊に対する安全性診断システムの構築を目的として,現地観測,実験を行った.渡良瀬川河川事務所の協力を得,国土交通省による先行調査の結果,浸透性に対する安全性に懸念がある区間の実堤防に,加速度・地温・電位センサーを埋設し,また,高感度微動センサによる加速度計測から堤防の内部構造を推定する微動アレー探査を実施し,それら各物理探査から得られたデータから,安全性の診断を試みた.結果,加速度の時系列データから堤防基盤の内部構造が詳細に把握でき,浸透性破壊の診断にとって重要な知見である堤防漏水の存在域を推定できる可能性があることが判った.同時に,地温,電位といった計測データから,微動アレー探査の結果,漏水域と診断された区間と同一区間において異常温度帯,電位の変動がそれぞれ確認でき,更にこれら区間が国土交通省による先行調査の結果とも符合することが確認できた.よって,本研究で用いた手法によって,漏水の存在域を効率的に特定できる可能性が高く,浸透性に対する安全性診断システムとして一定の有効性を示すことができた.一方,加速度,地温および電位といった各種センサの精度検証を行うため,防災科学技術研究所の大型斜面崩壊実験施設を用いて人工の水ミチを有する大型土砂崩壊実験を行い,それらセンサが,土中の局所的な浸透流に対して有意な感度を有しており,破堤等の大変形の兆候を捉える早期予測システムとしても活用できる可能性があることが確認できた.
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