本研究の目的は、肝細胞がんにおける遺伝子発現・臨床情報などのオミックス情報とマイクロRNA(miRNA)の発現データを統合し、がん細胞においてmiRNAが近傍の遺伝子の発現に与える影響を明らかにすることである。 平成20年度は、田中と水島が構築している網羅的疾患分子病態データベースから、肝細胞がんにおける遺伝子発現データを取得し、正常な肝細胞と比較してmiRNA近傍の遺伝子発現が大きく変化しているサンプルを探索し、さらに原発性の肝細胞がんと周囲の非がん部において、miRNA近傍の遺伝子の発現量を調べた。データは悪性度の異なる12人分であり、がん部周囲の非がん部は肝硬変または慢性肝炎の状態であった。解析では、それぞれのmiRNAを中心に幅の異なるウインドウを設定し、ウインドウに含まれる遺伝子の平均発現レベルを計算した。その後、全てのmiRNAについての結果を平均した。解析の結果、がん部と非がん部でmiRNA近傍の遺伝子の発現状態が顕著に異なることが見出された。がん部では、miRNA近傍の遺伝子の発現レベルがゲノム全体と異なった。一方、非がん部では、miRNA近傍の遺伝子の発現レベルとゲノム全体の発現レベルに大きな差はなかった。 また、同じサンプルでmiRNAの発現を調べ、近傍遺伝子の発現との相関を調べたところ、がん部と非がん部で有意に異なることを見出した。現在、そのメカニズムに関する検討を進めている。
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