研究概要 |
植物ではtRNA^<Tyr>とtRNA^<Met-e>をコードする核遺伝子がイントロンにより分断されている。tRNAスプライシング機構は境界部位の切断とエキソンの連結が酵素タンパク質により協調的になされる。tRNAスプライシング酵素はオルガネラにも局在することから,オルガネラで何らかの機能を担っていると推察される。平成22年度においては葉緑体に局在が観察されたtRNAリガーゼの機能を解明するために以下の2つの観点から研究を進めた。1)tRNAリガーゼのドミナントネガティブ変異体に対する酸化ストレスの暴露とtRNA分解:tRNAリガーゼが葉緑体RNAの修復に関与する可能性を検討するために,シロイヌナズナtRNAリガーゼをコードする遺伝子(AtRL)のリガーゼドメインの保存されたアミノ酸残基に変異を導入した変異遺伝子を構築しタバコでの過剰発現体を作成した。これに対して10mM H_2O_2を用いた酸化ストレスに暴露し,葉緑体RNAの分解の程度を野生型のものと比較した。この結果,少なくともtRNAでは分解の程度は野生型と変異体では差が見られなった。2)tRNAリガーゼのシロイヌナズナのタグラインの解析:シロイヌナズナのtRNAリガーゼのタグライン(SALK_126293,SALK_037164,SALK_059581)を入手して解析に供した。先の二つはプロモーター領域に,残り一つは転写開始点付近にT-DNAが挿入されていた。ホモ系統を確立して,発現量と表現系を調べた。この結果,mRNAレベルで有為な発現低下が観察されず,表現型も野生型と芽生えの段階で差異は見られなかった。 ストレスによるtRNA分解は細胞内での普遍的な現象である(Thompson & Parker,2009)。今回,葉緑体に局在するtRNAリガーゼが修復に関与する明確な検証ができなかったが,tRNAリガーゼ活性が律速となる暗条件下でのストレス条件を検討することで,修復反応をより検出しやすい実験系の確立が可能になるものと期待される。また,tRNAリガーゼは生存に必須であるために,コンディショナルなプロモーターでtRNAリガーゼ発現をノックダウンする系の確立も検討すべきである。
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