研究概要 |
地球上に降り注ぐ太陽エネルギーは、植物の光合成能力により有機物質として固定され、食物連鎖を通じて他の生物へ供給される。光合成を含めた植物の持つ能力を理解するには、植物に特有な遺伝子発現の仕組みを正しく認識する必要がある。遺伝子発現はDNAからの転写(RNA合成)の過程が主要な制御段階である。したがって本研究では、顕花植物でポストゲノム研究の最も進んだシロイヌナズナから無細胞転写解析系を作成し、光合成関連遺伝子群の転写制御を明らかにすることが目的である。 前年度までに、シロイヌナズナの培養細胞MM2d株を用いて、暗培養および明培養細胞から無細胞転写解析系をそれぞれ開発することに成功した。α-アマニチンによる転写阻害実験により、得られた核抽出液にはRNAポリメラーゼIIの活性があることが確認できていた。今年度は更に、光合成関連遺伝子であるリブロース-1, 5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシダーゼのスモールサブユニット遺伝子(rbcS)を用いて、暗培養および明培養由来の両無細胞転写解析系を使った転写制御の研究を行った。シロイヌナズナには4コピーのrbsS遺伝子が存在し、それぞれが異なる光応答性や組織特異性を有していると考えられる。それぞれの遺伝子の転写制御領域には、光応答制御配列(LRE)が同定されている。その中で、IbAM5として知られる配列に変異を入れた遺伝子を作成し、それらを鋳型として用いて無細胞転写解析を行った。その結果、変異を加えた3遺伝子の転写が暗培養由来の転写系で著しい向上を示した。このことは、暗条件で転写抑制因子が結合することを示唆している。 本研究により、無細胞系により光制御を解析可能なことを示し、未知の制御因子の発見につなげられる成果と考える。この解析系をさらに発展させ、DNAの高次構造変化による転写制御機構の解明に役立てることを期待している。
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