研究代表者によって細胞性粘菌で初めて発見された、新規ポリケタイド合成酵素SteelyはI型酵素のチオエステレースドメインがIII型酵素に置き換わると言う特徴的な構造を持つものであった。本研究では別個の酵素と考えられていたI型酵素とIII型酵素が、どうのように融合し、協調的に働いているのかを明らかにする目的で、精製SteelyB酵素を用いたin vitroでの酵素活性再構成実験を行った。endogenousな遺伝子にタグを挿入し融合タンパク質を発現させるノックイン株を用いて実験を行った。まずタグを使ってSteelyB酵素を精製した。一緒にいくつかのタンパク質もpull downされたので、これらをマススペクトルで分析したが、ほとんどがアクチン、ミオシンなどの構造タンパク質であり、Steely酵素の活性に関与するものではないと判断された。そこで、このpull down画分を用いてスターター基質、伸長物質を与えてin vitro再構成実験を行った。その結果、pull downサンプルは予想通り最終産物であるDIF-1のポリケタイド骨格を作り出した。スターター基質としてヘキサノイル-CoAを用いた場合だけでなく、アセチル-CoAをスターター基質とし、伸長物質としてマロニル-CoAを用いた場合でもポリケタイド骨格が出来た事から、このポリケタイド骨格はI型酵素からIII型酵素へ産物が直接受け渡されている事が強く示唆された。このようなin vitroでの酵素活性の直接的な証明はこれまでに報告がなく、Steely酵素の作用機構の理解にとって重要なステップとなったと考えている。 SteelyB酵素が作るDIF-1以外の産物については、その生化学的性質を明らかにしたので、現在精製に向けて、大量培養を行って出発物質を集めている段階にある。
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