刺胞動物のヒメイソギンチャク(Anthopleura asiatica)は日本本州の潮間帯に広く生息するイソギンチャクである。本種の粗抽出液が強い溶血活性と甲殻類致死活性を示し、この活性成分はタンパク質毒素であることが示されたため、活性本体の単離ならびに性状解明を目的として本研究を行った。イオン交換クロマトグラフィーとゲル濾過クロマトグラフィーにより約20kDaのタンパク質毒素が活性を保持したまま単離された。N末端アミノ酸配列は49残基解析でき、この配列に基づき分子生物学的手法により全塩基配列および演繹全アミノ酸一次配列を決定した。その結果、本タンパク質毒素は新規なアクチノポーリン型タンパク質毒素であることが判明した。もっとも高いアミノ酸配列同一性を示したのはウメボシイソギンチャクから以前単離されているequinatoxin V(75%)であった。単離した新規アクチノポーリンの0.8%ヒツジ赤血球に対する溶血活性はEC50値、8.8ng/mlを示した。この溶血活性は各種膜脂質のうちスフィンゴミエリンによって特異的に阻害された。また、ザリガニに対する本毒素の致死活性はLD100値、0.58mg/kgであった。グラム陽性菌・グラム陰性菌・酵母・カビを用いた抗菌活性試験においては活性が認められなかった。さらに、本毒素はPLA2活性も示さなかった。
|