本研究では沖縄以南で生息する海洋危険生物、ウンバチイソギンチャクを対象とした。ウンバチイソギンチャクの持つ刺胞から、主要タンパク質毒素としてPsTX-20A、PsTX-60AおよびPsTX-60Bがすでに単離されているが、その研究過程で刺胞内には主要毒素以外に複数のポリペプチドや低分子化合物が含まれることが判明した。これらの作用は未知であるが、刺胞内に含まれることからなんらかの生理活性作用を持つことが推測された。一連の研究の結果、同一のN末端アミノ酸配列を持つ14kDaおよび20kDaポリペプチドが刺胞内に多量に含まれることが確認された。同一のN末端配列から分子生物学的手法を用いて解析を行った結果、Kunitz型トリプシンインヒビターと相同性の高いアミノ酸配列を持つ20kDaの新規ポリペプチドの化学的性状が解明された。ところで、この20kDaのポリペプチド(20kDa)と同一のN末端アミノ酸配列を持つ14kDaのポリペプチド(14kDa)についてもその構造を特定することとした。そこで、これら20kDaと2つのポリペプチドの内部アミノ酸配列をMALDI-TOFMSを用いて解析し、2つのポリペプチドの詳細な化学構造を調べることにより、14kDaが20kDaのC末端か内部配列が欠損したものなのか、もしくはN末端だけ同一でそれ以降は大きく変異しているのか調べることとした。また、14kDaポリペプチドを独自にコードするmRNAの存在も調べた。その結果、14kDaおよび20kDaポリペプチドより45残基におよぶ同一の内部アミノ酸配列の存在を確認した。また、14kDaポリペプチドをコードする遺伝子の存在は確認できなかった。これらのことより、14kDaポリペプチドは20kDaポリペプチドの翻訳後修飾により生産されることがほぼ明らかにされた。
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