研究概要 |
本研究では,大腸菌などを利用した発現系ではうまく調製出来ない試料の発現を可能にする新規の系の確立を試みた.新規の系には植物細胞(タバコBY2細胞)とウイルスベクターを利用した。まず,トマトモザイクウイルスをコードする遺伝子に研究目的タンパク質をコードする遺伝子をタンデムに連結した.また,この遺伝子にはプロモーター領域を付加し,低分子化合物を培地に添加することでタンパク質発現のタイミングを実験者がコントロール出来るようにした.これを植物細胞に導入した.平成20年度は,複数のジスルフィド結合を有する幾つかのタンパク質試料をモデルとして選び,これらを目的タンパク質として大量に調製する系を構築した. 一般に大腸菌利用の系ではジスルフィド結合を持つタンパク質は沈殿として現れ,可溶化や巻き戻しの操作が必要である.一方,この新規の系では,発現した目的タンパク質は植物細胞内で可溶化していた.安定同位体15Nで標識された液体培地を利用して細胞を培養し,試料タンパク質の調製を行った.質量分析の結果,ほぼ100%の割合で試料の安定同位体標識が達成されていた.それぞれの試料についてNMRの1H-15N HSQCスペクトルを測定した結果,目的タンパク質が野生型と同様の立体構造を形成していることが明らかになった.以上のことから,今回開発した新規のタンパク質発現系ではジスルフィド結合を有するタンパク質を天然の立体構造を保った可溶化状態で発現することが可能であることが示された.
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