まず、リン脂質の固相上での合成を検討し、多様なリン脂質誘導体の効率的な固相合成法を確立した。 リン脂質を固相へと担持するにあたり種々の条件で検討したところ、光延反応がリン酸部とWang resinの結合反応において有効であることがわかった。市販で入手容易なWang resinを特別な化学修飾を施すことなく、直接リン脂質の固相合成に適用し、酸性条件下切り出す人工リン脂質の固相合成法を確立した。本法は良好な純度の人工リン脂質が簡便に得られる合成法である。他方、塩基性条件下で切り出し可能な固相合成法を検討した。 その結果、エチルスルフィド基が有用なリンカーとなることを見出した。エチルスルフィド基はリン脂質と安定な結合を形成するが、固相から切り出す際にはスルフィドの酸化によりスルホンへと変換可能で、温和な塩基性条件下、リン脂質の切り出しが可能であった。これらの検討から、酸性または塩基性の両条件下で切り出し可能なリン脂質誘導体の固相合成法を確立することができた。実際に、開発した固相合成法を利用することで、ピレン、カテコール、グリセロールをhead groupに持つリン脂質誘導体を効率的に合成することが出来た。これらの分子は、それぞれ膜蛋白質切断、膜表面の酸化還元反応、ドラッグデリバリーシステムの構築に利用できる有用な機能性リン脂質誘導体である。 また、tail groupの末端にチオール基を導入したリン脂質誘導体の合成も達成した。このチオール基を足掛かりに、金のチップ上にリン脂質膜をコーティングすることが出来た。このチップを水晶発振子マイクロバランス(QCM)に適用し、生理活性ポリフェノールであるカテキン類とリン脂質膜との相互作用を検出することができた。
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