研究課題
イシカワガエルは奄美大島と沖縄本島の固有種で、鹿児島県と沖縄県で天然記念物に、環境省レッドリストで絶滅危惧IB類に指定されている。従来の研究から、両島の個体群間で、形態・核型・生態的特徴に相違があることが分っており、最近では、奄美大島内に普通個体と区別できる大型個体の存在が報告されている。本研究では、先ず実験室での保全を目的に、鹿児島県と沖縄県から許可を得て採集した雌雄8対を用いて、人工交配を行った。その結果、これまでに人工繁殖させた1-4年齢のカエル2,000匹が順調に発育しており、これらの繁殖個体から、実験室での自然繁殖によって二代目も誕生している。さらに本研究では、本種の種内分化の実態を解明するため、奄美大島の大型と普通および沖縄島の計48個体を用いて、形態観察、交雑実験、アロザイムおよびmtDNA分析を行った。その結果、奄美産の普通と大型および沖縄産には、頭胴長などの外部形態形質に明瞭な差があることが分かった。交配後隔離を確認するため、奄美産と沖縄産との間で交雑実験を行ったところ、奄美産雌と沖縄産雄との雑種は正常に発育するが、沖縄産雌と奄美産雄との雑種は発生初期に致死になることが分った。アロザイムおよびmtDNA分析でも奄美産と沖縄産とは大きく分化しており、奄美産の大型と普通の間にはアロザイム分析で僅かな相違がみられた。mtDMの分析でも奄美産は2つのタイプに分かれ、その一方は主に大型に対応したが、もう一方には大型と普通の両方が含まれた。以上の結果から、(1)沖縄産と奄美産は明瞭に分化しており、分類学的に別種に位置づけられること、(2)奄美産の大型と普通は種分化の途上か、あるいは、かつてある程度分化した後、二次的接触により遺伝的交流が再開された状態にあること、が考えられた。奄美産の大型と普通については今後、さらに交配後隔離や遺伝的分化の程度を解明し、その分化プロセスを検討する必要がある。
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