平成21年度は、20年度に続き、イギリスでの資料収集およびその分析を行った。今年はマンチェスターにある労働党アーカイブを中心に、1950年代末から1970年代半ばにかけての労働党内での議論を中心に見るという計画であったが、労働党アーカイブが2010年春まで移転中で、一部の資料が閲覧できなかったというアクシデントがあった。しかし、党執行部資料、人種・移民問題ワーキンググループの報告書などを検討の対象とし、当初の計画の大半をなんとか遂行することができた。 現在、その後手に入れた別の資料と合わせて、分析を行っているが、特に着目したいと考えたのは、1960-70年代を通じての労働党の「人種問題」への取り組みであった。国際問題にしてもこの時期、南アフリカのアパルトヘイトなど、人種差別への道義的観点からの厳しい批判は左派リベラルに広く共有されていたと言えるが、同時に、国内の「人種問題」についてどう認識し、また具体的に「差別」にどのような取り組みを行われたか、当時の史料から幅広い議論をすくい取り、分析の対象とすることができる。実際の法制化には保守勢力のみならず、労働組合などにも慎重な議論が存在し、また、雇用や住宅供給などにおいて社会が厳しい現実を抱える中、人種間の平等をどのような形で保障するかという問題について、様々な見解が存在した。これはまた同時に、歴史的な帝国支配の遺産としてイギリス国内社会にもたらされた「移民」の存在を、ナショナルなコミュニティーの枠組みの中でどのように位置づけるかということに本質的に係わっており、今年度から参加している別のグループ科研(コモンウェルスに関する科研、およびイングリッシュネスに関する研究)と深いつながりを持つものとして位置づけることができる。 今年度は審査中の論文が2つほどあり、出版物という形で業績を残すことができなかったが、来年度は発表、論文という形での成果発表を予定している。
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