本研究は、関連先行研究における理論・概念の整理・分析と現地調査による実証分析という二方向からのアプローチをとるが、公共圏概念を非西洋的文脈で一年目に整理・分析という当初の目的は、文献収集については一定程度、達成されたものの、内容に関する検討についてはさらに深めていく必要があり、二年目の重要課題として取り組む予定である。現地調査は二週間にわたってトルコの複数都市で女性のNGO団体を訪問し、彼女らの抱くムスリム女性像と公共生活への参加の関連、スカーフ問題への見解などについてインタビュー調査を行った。 こうした研究の成果の一旦として、今年度は刊行物とシンポジウム報告として以下の3つの成果を出すことができた。まず、スカーフ問題に関連する世俗主義体制の公共理解について裁判関係資料や新聞報道等を分析した「ムスリム社会における世俗主義の不寛容」(下記「研究発表」欄記載の森孝一編所収論文、以下同様)を発表したほか、"Development of Constitutional Democracy in Turkey"(T. Sato ed. 所収論文)では、体制の公共理解やアイデンティティを体現し制度化している憲法を取り上げ、トルコの民主化の文脈から考察した。下記学会発表欄記載の国際シンポジウム報告では、スカーフ問題を人権・自由侵害の問題として論じる女性のイスラーム復興勢力の言説がなぜ世俗派に受け入れられにくいのかについて、イスラームとりベラリズム、公共性観念が互いにどのような点で相容れないのかという点を明確にするために、バーリンの「二つの自由論」にそって読み解く試みを行った。
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